第9章 月詠の子守唄
聞けば、男児は弟が生まれたことで、母親からは構って貰えず、父は出稼ぎであまり自分が構ってもらえることがなく、赤子と母親の声が聞こえないくらいに遠くへ出かけて時間を潰すことが多かったという。
そして、その日は日没を迎えてしまって、後ろから声をかけられ、そこに"雰囲気が少し違う子ども"が立っていたという。
そこに殺意を感じなかったのは、鬼でも童心が働いたのだろうかと考えた。
男児は、恐れることなくその鬼にけん玉を教えてやった。
醜童は熱心に聴きながらなんと3回も会い教えを乞うていたという。
そして、しきりに鬼から「僕のこと怖くないの?」と聞かれそれを否定したらしい。
「それでね、僕思ったんだ。きっと今まで僕よりも長い間ずっと独りだったんだろうなって!
遊んでる時ね、すごく目がキラキラしてるんだもん!」
なにかの精霊と思ったのか、孤独な何かに写ったのか、男児は純粋な好奇心の目に怖さを感じなかったのだろう。
だが、そうともすれば、声をかけてきた最初に助けてくれた事を感謝してここに来ていることが分からない。
「楽しかったのだろう?なぜ坊主は"助けてくれた"と思っているんだ?」
「だって、苦しそうだった。お昼に遊べないこと、友達にこわがられること、いっぱい。それに、怪我した時の匂いがいつもしてた......。
お兄ちゃん、お姉ちゃん、もうあの男の子、いないんでしょ?」
「あぁ。いない。」
「そっかぁ。じゃあ、僕もしまた生まれ変われたら、あの子と友達になれるかな?」
無邪気にそういう男児が優しい顔で空を見上げた。
「なぜそう思う?」
「じいちゃんが言ってた!"ほとけ様の教え"なんだって!」
幼さゆえの無邪気な笑みが2人には眩しく映った。