第9章 月詠の子守唄
「少し休もう。」
そう言って、外に連れ出されてまだ夏の気配が色濃く残る屋敷の外を散策することにした。
眠ればまた辛い夢を見るだけだからゆっくり横になるのすら怖かった。
優しい風に吹かれて、遠くで子供が遊ぶ元気な声がする。
そういえば、女学校結局は行けなかったな。
でも、あのころは何も知らず大好きな家族と使用人たちに囲まれてただ、愛の中で生きていた。
そんなことをぼんやりと考えながら、ただ繋がれた手はものを言わぬまま、わたしがどこにも行かぬようつなぎ止めているようだった。
ふと足を止め、誰かが来るぞ?と振り返る狛治と同じ方を向いた。
6歳くらいの幼子が大きく手を振って笑顔で走ってくる。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、昨日、昨日助けてくれた人たちでしょ?」
「助けた?」
「僕を見つけてくれたのは別のお姉ちゃんだったけど、そのお姉ちゃんのことを聞いたらここだって教えてくれたから。」
男児の話の内容から、昨夜、醜童に捉えられていた子どもだと解る。
「坊主。こんなところ一人で来たらダメだろう。」
「家、すぐ近くなんだ!どうしてもお礼を言いたかったんだ!」
「礼ならいい。だが、坊主はどうやって助かったんだ?」
醜童はこの男児のことを"稀血の男の子"と言ってたのを狛治はハッキリと覚えている。
血鬼術をかけられたり、体をすり抜けたりでもしたら今でも苦しんでいるはずだ。
そして何よりも、鬼と遭遇した子どもとは思えない明るさで、本当にこの男児が被害者だとは思えなかった。
さらに、男児は首をキョトンとかたむけて
「助かった?僕、あの子に何もされてないよ?」
と言った。
意味もわからず、桜華は悩んでることを忘れて狛治と顔を見合せた。
「どういうことだ?」
「あの子、初めて見た時はずっと僕を見ててね?それってどうやって遊ぶの?ってこえをかけてきたんだよ。」
「何で遊んでたの?」
「けん玉!」
男児が笑顔でそういうことは2人には全く分からない事だった。