第9章 月詠の子守唄
それぞれが寝室に入り、桜華が襖を閉めると狛治を問い詰めた。
「どういうことです?聞いていませんでしたよ。
父が昔の侍のような姿をして現れたことがあると...。」
「すまん。そこまでしっかり話していなかった。」
「オマケに無惨を倒した侍に酷似しているとは?
では、父は何者で、わたしは誰なのですか?....」
狛治の腕を両手で掴む手は、痛いほどの力で心做しか震えている。
詰寄るその瞳はまっすぐに鋭く相手を見ているのに、ガラス細工のように脆いもの。
己の手を掴む手を空いた手で優しく包むように胸に引き寄せた。
「ここ最近、いろんな現実離れした事と直面して...俺自身もまだ完璧に確信に至れないでいるんだ。
巧一さんたちも、なぜ珠世という女の所へ行かせ、そこで真実を知るようにしているのか真意は解らない。
だけど、皆、桜華の心が大事で、確実な情報をも持つ全ての歴史の証人の所で全てを聞いて欲しいと....」
「推測でも憶測でも、不確かなもので構いません。だけど気づかないフリしてわたしが、心を痛めるのを避けようとなさらないでください......。
1番嫌なのは隠されることです。
もう知っているのでしょ?狛治も、細手塚さんたちも...
わたしは、当主です。全てのことを知る義務があります。
そして、何より
夫婦でございましょう?」
"夫婦"という言葉が酷く狛治の胸を苦しくさせる。
言うべきか、言わざるべきか
先日の桜華の父親の話から
ほぼ間違いないという確信が持てている。
だが、本当に現実問題あり得る事なのか
本人がどうとらえるかは任そう。そして桜華が苦しみ気を病むのなら支えてやればいいのだ。
「俺は、桜華がどんな親であれ、どんな環境で、どんな試練を抱えていようとも、俺は絶対お前を離す気はない。
それだけ、何があっても忘れるな。」
前置きをそれに、意を決して話すことにした。
あまりにも真剣な面持ちで話す狛治に、しっかりと握られた手に空いた手を重ねて頷く。
「桜華。君は、______。」
受け入れがたい言葉を聞いたその時、
桜華の中で何かがはじけたと同時に、視界が暗転し、そのまま意識を失った。