第9章 月詠の子守唄
「話は解った。今のところ2人に疑いの目は持っちゃいない。
すこぶる鬼に縁のある家柄のようだな。
恐らくそっちの方が鬼には派手に詳しいだろうよ。」
鬼という存在に対する例外は有り得ないと思っていた宇髄だったが、人間の鬼を狩る名家に400年もの付き合いがあるのならと、目の前の"人間になった例外な鬼"を見ながらそう思ったのだった。
「あとひとつ、言っておきたいことがある。
俺は桜華の父親から、"日の呼吸"の素質を受け継いだが、この力は鬼だった頃の力がそのまま残っているにもかかわらず、扱うのに相当な体力を有する。
まだ身体に馴染めず、体力を保つことに限界がある。
そして、無惨がその日の呼吸を使う侍が出たあと、しばらく身を隠したという過去がある。
だから、鬼の時代を終わらせるためにも戦力が整い柱が10人ほどに増えるまで、俺は身を隠し、桜華の情報共有、支配能力を断つ力の傘が及ばないところで力を使い鬼と戦うことはしない。
無惨は臆病だ。下手に出たら身を潜め、また数百年と鬼の時代が長引く事にもなりかねんからな。」
「なる程な。桜華の父ちゃんが家族が殺されても力を隠し通したってのは、全部娘であるアンタに託したと...。
そういうことで捉えていいな?」
「はい。父の人柄から考えても、それ以外はありえないと思っています。」
桜華がそう答えたことで、お互いの認識が合い少しその場の空気の緊張の糸が緩んだ。
「今の話を聞いてこっちからも話さなきゃならねぇことが出来た。
だが、1度ゆっくり休もう。
もう日が登りそうだ。」
そう言われて窓を見ると、日の出が近いとわかるくらい空が白みはじめていた。