第19章 ドンキホーテ・ロシナンテ
街の賑わいを聞きながら、閉じていた目を開く。
路地裏の薄暗い闇が視界に入った。
体力は随分戻ってきた。
間もなく動けるようになるだろう。
刺青だらけの自分の両手に視線を落とす。
ついさっき、数分前にアイツに触れた手だ。
柔らかい髪も頬もまだ感覚が残っていた。
過去の回想から戻ると、あの笑顔が今自分の手元にないことにますます陰鬱な気分になった。
「…島で暮らしてれば良かったろう。おれがどれだけ苦労して諦めたと思ってんだ」
言ったところでどうしようもねぇが、ここまでの経緯を考えると悪態を吐きたくなるのも無理はないと思う。
グランドラインに漕ぎ出してからというもの、海賊の汚ねぇ情報網だろうがなんだろうが使えるだけ使い、コラさんについて調べた。
アウラをあの島に連れてきた経緯、コラさんが死ぬ前にとった不可解な言動の意味、それらを知り、コラさんの本懐を遂げるためなら多少の危険は厭わなかった。
だが、数年前にこの世を去った人の影を追うのは簡単な話じゃなかった。
前半の海で労力を惜しまずやれるだけのことはやったが(そのせいでハートの海賊団が残忍かつ冷酷な一味として世に恐れられるようになったが)、何の手がかりも掴めないまま徒に時が過ぎた。
そんな状況に業を煮やし、いけ好かねぇ政府の狗に降ったのが約2年前。
気は進まないが、海兵だったコラさんのことを知るためには結局それが一番有効だろうと、強行突破とも言える手段をとった。
結果的に、それで知り得た情報は多かった。
あの人が元元帥センゴクの直属の部下だったことにも驚いたが、俺がファミリーにいた僅か数年の間にも海軍の任務を同時にこなしていたことを知った時は流石に耳を疑った。そんな器用な人たとは思わなかったが。
さらに、世界政府の胸糞悪くなるような闇を知った。
パンクハザード、人造悪魔の実SMILE、SAD、シーザー・クラウン、四皇、闇のブローカー…
それらを組み合わせた時、ある面白いシナリオが思い浮かんだ。無謀だが、悪くはねぇ。
…やっとだ。長年の旅の末に、ようやくドフラミンゴを引き摺り下ろす糸口を掴んだと思った。コラさんを失ってから13年が経ち、いつのまにかあの人の歳に並んだ。そんな時に。
──アイツは突然俺の前に現れた。