第19章 ドンキホーテ・ロシナンテ
──やべェな。
それはほぼ確信に近い予感だった。
いつか。
いつかそう遠くない未来、俺はコイツを海に連れ出さずにはいられなくなる。
そうするべきじゃないと分かっていても、海に憧れ、愛しているアウラにここからじゃない別の景色を見せてやりたくなる。
コラさんの妹かどうかはもはや関係ない。
この笑顔を側に置くことができるなら、俺は──。
「…潮時、かもな」
「え?今なんか言った?」
「いや、何も」
だから、"その時"がくる前に。
全て考えるのを辞めて、欲望のままに連れ出してしまう前に、やはりここを去るべきだった。
他でもないあのコラさんが海楼石を付け、わざわざ外すなと約束させた上で置いて行った。その理由が分からない以上、連れて行くという選択肢だけは捨てなければならない。それがどれだけ耐えがたい決断だろうと。
友を失い、家族を失い、故郷を失い。
そして、命の恩人さえも俺は助けることが出来なかった。
なら、心底守りたいと思ったただ一人ぐらい、生きていて欲しかった。
この世界の何処かで、幸せに暮らしていて欲しかった。