第1章 ずっと昔から【沙明】
お前が起きてくるまで、俺はツバサに話しかけ続けた。
やっぱりツバサは俺の事を覚えていない様子だった。
自分で自分を消しちまいたかった。
ツバサとだけは仲良くなりたかったんだよ。
忘れられても、昔みたいに仲良く出来たら。
ずっとツバサの姿を見ていられたら。
……あわよくば俺の事を好きになってくれたら。
そんな下心満載の想いで、ツバサに近づいた。
ツバサとはやっぱり仲良くなった。俺らは子供の時初めて会った頃からすぐに打ち解けたからな。
今でも仲良くできないはずがねぇ。
そこからはずっと幸せで。ツバサといる時間がそのまま止まって欲しかった。
そのあとは、お前が起きてきて。
パーティーやって、グノーシア反応が検出されて。
「……後は知ってる通りだ。…アンダスタァン?」
「………」
沙明にそんな過去が……
やっぱり、僕の勘は間違っていなかった。
沙明はツバサのことがずっと好きで、そのツバサに忘れられてしまって。
ずっと……辛いなんて言葉じゃ表現しきれない程の苦悩を抱えて、絶望して、ツバサのことを想って。
……でも、沙明。君は誤解しているところがある。
彼女の特記事項に書いてあるんだ。
"物心ついた頃からのことを全て覚えているほど、記憶力が高い"
そう書いてあるんだ。
だから、君が彼女と過ごしたという時間は、彼女は絶対に忘れてないはずなんだ。
この先の会議でも、この二人は凍らせない。
絶対に、二人を仲直りさせなきゃ。
沙明の想いも、僕は叶えてあげたい。
「沙明」
「…ン?なんだよ」
息を吸って、沙明に僕の提案を伝える。
「僕も協力するから、ツバサと仲直りしよう」
「……無理だろ。忘れたか?大体コイツは」
「忘れてないはずだ」
キッパリと言い放つ。
「……お前に何が分かるっつーんだよ」
「彼女は記憶力がとても高いんだ。君とのことも覚えているはずだ」
「……コイツの事なんでお前がそんなに知ってんだよ。そんなに言うなら信じてやる。正直お前だけが頼みの綱なのは事実だし」
良かった、沙明は僕に協力してくれるみたいだ。
「ツバサからさりげなく聞き出してみるよ。何か分かったら教えるから」
「OKOK。…んじゃ、頼むわ」
その日僕はコメットを消して、どうやって聞き出すか少し考えてから眠りについた。