第1章 ずっと昔から【沙明】
まあ、俺はグノーシアだったんだけどな。
もうとっくにルゥアンは駄目になってた。
他の星に移って、次の生贄を探そうと思った矢先、運がいいことにこの船に乗り込めたワケだ。
ライトは確か医療ポッド入ってたから知らねーんだよな。
船に乗り込めてラッキーってその時までは思ってた。
話変わるけど俺女が好きなんだよな。知ってると思うけど。
んで、この船に乗ってきた女の子達と是非ともお近付きになりたいと思って乗員を観察してたワケだ。
でも俺はその中に知ってるヤツを見つけた。
……分かるよな?その知ってるヤツってのがツバサだ。
見た時はマジでビビったね。もう一回本物のツバサの姿が見れるとは思ってなかったからよ。
ずっと好きだったヤツにもう一回会えたんだぜ?もう嬉しくて嬉しくて、マジで泣きそうになっちまった。
逃げ込めたヤツらで集まって自己紹介した後、真っ先にツバサの元に向かった。
昔のことを謝りたくて。"お前が好き"って言いたくて。
あくまでもさりげなく、声をかけた。
「よっ。ツバサ」
「えっと、貴方は確か、沙明だったよね?私に何か用かな」
結果は残酷なものだった。
ツバサは俺の事をまるで覚えていないという様子だった。
初めて会った他人に接する時のような態度と反応。
俺だけがツバサのことを知っている。俺だけがツバサのことを一方的に愛している。
絶望が俺を襲う。昔の俺らがなかったことになってしまったような気がして。
「……いや。何でもねェよ」
個性的なメンバーの中で、一際輝いて見えたツバサ。
俺の事を覚えていて欲しかった。でも忘れていて欲しくもあった。
必死に感情を隠して、涙を堪えて。
俺の演技力を最大限使って、共同寝室に向かって眠った。