第48章 混乱極まるラプソディ【渋谷事変】
「そういう術式でね。脳を入れ替えれば肉体を転々とできるんだ。もちろん、肉体に刻まれた術式も使えるよ。彼の【呪霊操術】とこの状況が欲しくてね。君さぁ、夏油 傑の遺体の処理を家入 硝子にさせなかったろ」
つまり、目の前の得体の知れない存在は、術式で死んだ夏油の身体を乗っ取ったってことか!
怒りに腹の底が煮えくり返る。
身体が震えるほどの怒りを感じたのは久しぶりだった。
「変なところで気を遣うね。おかげで楽にこの肉体が手に入った」
男が開いた頭を縫いつけ、こちらに視線を戻す。
「心配しなくても、封印はそのうち解くさ。一〇〇年……いや、一〇〇〇年後かな。君、強すぎるんだよ。私の目的に邪魔なの」
それを聞いて、五条は「ハッ」と思わず笑い声を漏らした。
「忘れたのか? 僕に殺される前、その身体は誰にボコられた?」
「乙骨 憂太と神ノ原 星也か」
五条の言葉に、男が不愉快そうに眉を寄せる。
そう。去年の『新宿・京都百鬼夜行』で星也に追い詰められ、乙骨に重傷を負わされた。
あの二人の実力はすでに自分のレベルに迫っている。
「私は二人にそこまで魅力を感じないね。乙骨 憂太の無条件の術式コピーと底なしの呪力――どちらも最愛の人の魂を抑留する“縛り”で成り立っていたにすぎない。神ノ原 星也も、【陰陽術式】は確かに脅威だが、正の呪力を使う術が多く呪力の消費が激しい。術式のオマケで並みの術師と比べると呪力量は桁外れだが、乙骨のような底なしの呪力を持つわけではない」
――残念だけど、二人は君にはなれないよ。
視界の端で、特級呪霊たちが意識を取り戻すのが見えた。
男も気づいたようで、記憶の中の夏油のような、穏やかな微笑を見せる。