第48章 混乱極まるラプソディ【渋谷事変】
『八両編成で参ります。黄色い線のブロックの内側でお待ちください。ホームドアから手や顔を出したり、もたれかかるのはお止めください』
突如 電車のアナウンスが流れた。
――ギィイィィィィッ‼
強い風が五条の白い髪を巻き上げ、車輪と線路をこする擦過音がホームに響き渡る。
『来たな!』
火山頭が喜びと安堵の表情を見せた。同じように「電車だ!」と一般人の誰かが声を上げた。
ようやくこの地獄絵図から抜け出せると考えたのか。我先にと一般人たちが騒ぎ出し、突き飛ばされて倒れる人も出てきた。
やがて男が、「俺が乗る!」と人混みをかき分けて飛び出すと、電車の扉の前で息を呑んだ。中には改造された人間がすし詰め状態で押し込まれていたのだ。
電車の扉が開くのと同時に、男は真っ先に改造人間に頭を食われた。
それを皮切りに電車からは次々と改造人間がホームへとなだれ込むように出てきて、一般人たちの戸惑う声や悲鳴が空気を塗り潰す。
腕を掴まれ、引きちぎられ、食われ、殴り殺される一般人たちを前に、五条は混乱した。
「……何 考えてやがる」
自棄になったのか?
人間が減って困るのはアイツらのはずだ。
そんな中、ピョンッと一人の青年が電車から飛び出してきた。顔にツギハギのある男だ。
『漏瑚~!』
青年が手を振って火山頭に近づく。
『いや~、空気がおいしいね。恐怖が満ちてる。やっぱり、人間 少しは残そうよ。週末は森に放して狩りをするんだ』
『森ごと焼いていいのか?』
『花御に怒られるよ?』
『花御は死んだ』
火山頭の言葉に、『マジ?』とツギハギが目を丸くした。
やがて、ツギハギが改造人間を長く伸ばし、こちらに向かってくる。ドッと繰り出された拳が無限に阻まれた。