第4章 四夜目.恋のかけら
『人目も気にしないで、あんなにも健気に想いを伝えられて私はどうしたらいいんでしょう!?この前なんか、他のスタッフのセットアップ断って私の身が空くまで待ってるって!なんて一途!!
あと彼は無自覚でしょうけど、いちいち距離が近いんですよ!ふいに顔を近付けるの本当にやめて欲しい!心臓がもたないから!むしろワザとやってるんじゃない!?
それに、くしゃってして笑う時の顔ヤバイ!でも集中してる時の無表情エロい!はぁ…もう、いつも可愛い可愛いって言って誤魔化してたけど、彼はとても格好良いん……』
壊れたマシンガンのように喋り続けていたエリは、突如としてはたっと静まった。そして、開いたままになっていた銃口に手のひらを当てる。
『私、いま何か言いました?』
「僭越ながら…何か、どころではないくらいお話になっていましたね」
壮五は我慢出来ずに破顔した。それほどに、彼女が口にした言葉の数々が嬉しかったのだ。対してエリの顔色は浮かない。
『わぁ…。とんでもない事を口走ってしまった』
「いえ。そんな」
『いいんです。自覚はありますから。ずっとずっと抑えてきた気持ちが、爆発したんですね。きっと』
「その気持ちは、本当に抑える必要はありますか?」
壮五が彼女に抱く印象は、思慮深く聡明。そんなエリだからこそ、この件に対しても慎重になっているのだろう。
『ありますよ。世間体とか、諸々考えなくちゃいけないですしね』
「…あなたが気にされているのは “どちら” の世間体ですか?」
『もちろん、環くんのに決まっているでしょう?』
また大人びた表情で頬を綻ばせた。
『アイドルにスキャンダルは、御法度だから。まして、その相手が十個も年上の私じゃね』
迷った挙句、壮五は結局口を噤んだ。これ以上自分が何を言っても無意味であると悟ったからである。
それに、エリが自らの心に建てた壁を壊す役割を担っているのは、自分ではない。