第4章 四夜目.恋のかけら
—11小節目—
大人の事情
自分はいくら嫌われてもいい。どうしたら、何をしたら、どんな言葉なら、彼女を焚き付けることが出来るだろう。壮五は思考を巡らせた。
「環くんの想いに応えるつもりがないなら、彼に曖昧な態度を取らないでもらいたいんです」
『それは、逢坂さんが決めることでしょうか』
大人の余裕という奴だろうか。エリは、真っ直ぐ壮五を見て微笑んだ。まずこの仮面を剥ぎ取らないことには、話は進まないだろう。
「曖昧な態度を取っているという点は、否定なさらないんですね」
『うーん、どうなんでしょう。人によって見え方は様々ですから』
困り笑いを浮かべるエリに、失礼を承知で申し上げますがと前置きをする。そして彼女の様子を注意深く伺いながら、壮五は少しずつ言葉を置く。
「僕には、あなたが環くんのことを…その、誑(たぶら)かしているように見えるんです」
『った、…たぶらか…っ!?』
エリの平静が大きく揺らいだ。怒らせてしまったのだろうかと、壮五は壮五で動揺した。揺さぶるつもりではいたが、怒りを買おうなどとは微塵も思っていなかったから。
すみません!違うんです!そう謝罪しようとしたのだが、エリの方が早く口を開いた。
『私が、環くんを…誑かしてるって…!』
「あ、いえ、あの!」
『むしろ誑かされてるのって、私の方じゃないですか!?』
「ご、ごご、ごめんなさい…!!
って…、え??」
エリは胸に手を当て、鬼気迫る表情で壮五との距離を詰めた。