第4章 四夜目.恋のかけら
—9小節目—
立ち込める不穏
エリが悪名高い文秋の記者と密会しているのを目撃してから数日。壮五は、環に内緒で彼女を呼び出した。
緊張した面持ちのエリと、覚悟を決めたような顔付きの壮五は向かい合う。
空調の無機質な音は、普段こんなにも大きかったろうか。壮五はそんなことを思った後、口を開いた。
「突然お呼び立てして、すみません」
『いえいえ、それは全然構わないんです。環くんや逢坂さんに比べれば、私のスケジュールなんてスカスカなんですから』
自らの緊張をほぐすように、彼女は饒舌だった。壮五は肺に大きく息を入れてから、いよいよ質問する。
「率直にお伺いします。中崎さんは…環くんのこと、どう思っていますか」
『……』
エリの瞳が、動揺に揺れる。視線は壮五に返されることはなく、そのまま床に向けられた。その様子と、貰えない返事に、彼の不安は大きくなるばかりだ。
天から聞いた、あの言葉。
“最近、週刊文秋の過激派記者の動きが活発化している”
百が教えてくれた、例の情報。
“記者は常に血眼で、有益な情報を売ってくれる証言者を探してる”
先日、環はこう言っていた。
“えりりん、なんかお金いるんだって”
そして…自分のこの目で見た衝撃の光景。
エリが密会していた相手は、文秋のパパラッチであった。
壮五の中で、バラバラなピースが組み上がっていく。
エリは記者と組んで、環のスキャンダルを世に出そうと画策しているのではないだろうか。