第4章 四夜目.恋のかけら
「そうだ。コレはあんまり大きな声じゃ言えないんだけど…」
百は、これまでより一層声をひそめて話し出す。壮五は、その小さな声を聞き逃すまいと耳を彼の口元に近付けた。
「週刊文秋の記者の話、聞いた?」
「いえ。あ、でもそう言えば…九条さんもチラッと仰っていたような」
「そっか。さすが八乙女さんのところは、耳が早いや」
うんうんと感心した素振りを見せたのも束の間、百は表情を引き締めて続ける。
「最近、著名人が文秋の餌食になってるって話をよく聞くんだよね」
「餌食、ですか」
「うん。事実を書いてくれれば良いんだけどねえ。あそこは売り上げ重視で、あることないこと書いてくれちゃうから。
適当な証言者でっち上げて、ありもしない過去を捏造して、ターゲットにした人間の地位と名誉を簡単に奪ってしまう」
壮五は、先日読んだ文秋の記事の内容を思い出していた。とある大物芸人による下劣な女遊びの取材記事。だが不可解なことにそれを証言した女が被害に遭ったのは、なんと八年も前のことだという。何故そんな昔のことを今更と、IDOLiSH7のメンバー達と首を傾げていたのだ。
「世間じゃ “文秋砲” なんて面白おかしく揶揄されてるけど、オレ達にとっちゃ死活問題だよ」
「スキャンダルを、わざわざ捏造するなんて。やり方が下劣ですね」
「本当に。雑誌が売れさえすれば、当事者がどうなろうとお構い無しだ。他人の人生を何だと思ってるんだろう」
そう呟いた険しい顔が、彼の怒りがいかに大きいかを表していた。