第4章 四夜目.恋のかけら
—8小節目—
黒い噂
翌日。壮五は一人、局の廊下を歩いていた。やがて、進行方向の先に見慣れた姿の男を発見した。その姿を見つけるなり、足早に彼の元へと駆け付ける。
「も、百さん!」
「あ!壮五!」
壮五に名を呼ばれ、振り向く百。そうして二人は、廊下の端で向かい合った。
「昨日は、ありがとうございました!」
「昨日は、ほんとごめんね!」
え??
二人は互いの口から同時に出た、全く意味の異なる言葉に顔を傾けた。
「いえ、あの。昨日環くんに、千さんがきっかけを作って下さったおかげで、中崎さんから渾名で呼んでもらえるようになったと聞いたものですから。千さんにもぜひ御礼をと思った次第で」
「そうなの!?昨日ユキがね、環があんまり可愛いからイジメすぎちゃって悪いことしたなって言ってたから、ここはモモちゃんがダーリンの代わりに謝んなきゃって」
双方の話が出揃って、二人はなんとなく事の顛末を理解する。それからようやく、ほっと笑顔になるのだった。
百は、こそっと壮五に耳打ちする。
「てことは、雨降って地固まった系?ついに環も彼女持ち?」
「いえ、そこまでは」
「そっかあ。環、かなり頑張ってるんでしょ?想いが実ればいいよね」
「…やっぱり、百さんのところにまで噂が届いているんですか」
「まあね!オレの情報網甘くみないで!」
バチっとウィンクを決める百のアイドルオーラにあてられて、壮五は苦し気にうっと胸を押さえた。