第4章 四夜目.恋のかけら
「あはは、勿論ですよ。まさかRe:valeの千さんが、後輩をいじめただなんて思っていませんから」
「う…っ」
「それよりも、うちの環の方が失礼をしませんでしたか?もし何かありましたら、すぐ仰ってくださいね?千さん」
「いや…全然、大丈夫です…」
実は、 エリはそれなりに千との付き合いが長い。
しかしこんなふうに、千の顔から余裕が消えるのを初めて見た。
万理という人物を彼女は詳しく知らなかったが、彼の言動が原因と見て間違いないだろう。
しかしながら。彼ら二人の並々ならぬ絆や深い関係性を、エリは知る由もない。
大袈裟ともいえる笑顔を浮かべていた万理だったが、ようやくその顔を千に向けるのをやめた。千が胸を撫で下ろしたのは言うまでもない。
環を探しに行くと言い、メイク室を後にしようとした彼にエリは声を掛けた。
『あの』
「はい?」
エリは万理と会話したこともなければ、なんならフルネームすら知らなかった。しかし日頃から環が、バンちゃんがバンちゃんが!と話を聞かせてくれていたので、初めて会った気がしない。
だからだろう。こんな申し出が出来たのは。
『私に行かせてもらえませんか?環くんを探しに行くの』
シルバースカイの瞳が、じっとエリを見つめた。やがてその瞳をふっと緩めて、弾んだ声で答える。
「中崎さんに行ってもらえるなら、きっと彼も喜ぶと思います。都合さえ良ければ、お願い出来ますか」
その言葉だけで、彼がエリのことを環から聞き及んでいるのだと窺い知れた。