第4章 四夜目.恋のかけら
—6小節目—
強者
「お疲れ様です。小鳥遊の者ですが、うちの環を迎えに……あれ?」
「バンチャァーーん♡相変わらずイケメンねぇ、サクラうっとりしちゃう」
「はは。そんな。恐縮です」
「いつになったら、全身アタシに預けてくれるのかしら?今よりもイケイケのピカピカのツルツルにしてあげるわよ〜?」
「はは。機会があればいずれ。それよりも…」
万理は再び、メイク室内にあるはずの環の姿を探す。しかしどれだけ見渡そうと彼はそこに居ないのだ。代わりに見つけたのは、身を小さくして気配を消そうと尽力している男の姿だった。
万理の視線が自分に向いたことに気付いた千は、びくっと体を硬直させた。そして目に見えて冷や汗をかき始め、メイク崩れを気遣うエリを焦らせた。
「ごめんなさいねぇ。タマタマ、セットの途中で出て行っちゃったのよ。まぁすぐに戻って来るとは思うんだけど」
サクラが言い終わるやいなや、また全員が千の方に視線を集める。彼は今、針の筵に座らされている気分に違いない。
「ぼ、僕はべつに、何もしてないよ…?」
しどろもどろになりながら、言い訳的なことを述べる千。そんな彼を見て、万理は千を咎めるどころかにっこりと微笑んだ。