• テキストサイズ

十六夜の月【アイナナ短編集】

第3章 三夜目.トライアングラー




なんとか自分が会計をしようとする三月を、強引に言い包めることに成功する。誕生日くらいはご馳走させて欲しいと強く言い続けた、エリの粘り勝ちであった。

テーブルで会計を済ませ、一息ついたあと。三月は名残惜しそうに、じゃあ行こうかと席を立った。しかし、エリはその場から動かない。緊張を顔に出してしまったので、三月は不安げに再び席に着いた。


「エリ?どうした?何か言いたいことあるのか?」

『え……っと、その…。あのね…』

「うん。ゆっくりで大丈夫だから」


三月の声色と表情はひどく優しくて、エリの心を落ち着けた。全身から勇気を振り絞り、なんとか言葉を並べていく。そして、一枚の黒いカードをテーブルの上に取り出した。


『へ、部屋を…取ってあるので…。とっ、泊まって…いきませんか』

「……………ええっ!?」


三月の大きな声は、厳かなフロアには非常に似つかわしくない。すぐそれに気付いた彼は、口元を手で押さえながら周りの人間に頭を何度も下げた。


『三月は、私のことを…その、とても大事にしてくれてるから…。それは嬉しいよ?嬉しいんだけど、でも…。そろそろ先に、進んでもいいのかなって…
あぁでも!三月の気が進まないなら全然断ってくれてもい』

「気が進まないって、そんなこと…あるわけないだろ…!」


三月の顔には、抑えきれない喜びが滲み出ていた。


『ほんと…?よ、良かった』

「当たり前だ!もう、めちゃくちゃ嬉しいよ。
それに…ここで尻込みなんかしたら、男がすたるだろ?」


そう言ってから、彼の手は確かにカードキーを取った。

/ 249ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp