第3章 三夜目.トライアングラー
『楽。和泉さんに何言ったの…』
「何って。俺は本当のことしか言ってねえ」
『例えば?』
「俺がエリをどれぐらい愛してるか伝えただけだ」
『またそういうややこしい事を!!』
「何がややこしいんだよ!シンプルだろ!」
『シンプルに迷惑だよ!中学の時に私の隣の席だった男の子にも、高校の時に電車通学中に知り合った他校の男の子にも、同じこと言って無駄に牽制したの忘れてないから!』
エリの剣幕に、楽は一歩後ずさる。しかしその瞳は真剣そのもので、しっかりと彼女を見据えていた。
「お前のことが大事だから、半端な男を近付けたくなかった。実際、そいつらは俺が少し何か言ったら簡単に逃げただろ。
でも和泉は逃げなかった。ただ、それだけだ」
『むぅ…。なんか上手く言い包められたような気がしないでもないけど、いいよ。誤魔化されてあげる。だって私いま、すっごく幸せだから』
「エリ、最後にひとつだけ…いいか」
『うん?』
「従兄弟同士は、結婚を認められてる」
『なにそれ』
楽は、寂しそうに瞳を伏せた。
本当にこの男は何を考えているのだろうと、エリは眉をひそめる。そんな彼女の腕が、遠慮がちに後ろへ引かれる。彼女を呼んだのは、三月であった。
「ごめん、もっかい…確認してもいいかな」
『確認、ですか?』
「エリはオレの、恋人になってくれるってことで…合ってる?」
『ふふ。そんな確認なら、何度でも。私は、和泉さんの彼女になりたいです』
「っ、うわ…。意味分かんないぐらい嬉しい」
三月は頬を僅かに染めて、ふにゃっと笑う。
「じゃあさ…オレのことも、下の名前で呼んでもらっていい?」
『はい。えっと…三月さん』
「あ、これヤバ。オレ、いま世界で一番幸せだわ」
『あははっ!やだもうっ、三月さんたら!』
イチャコラを始めた二人に、楽は静かに背を向けた。そのまま店の外に向かう彼を、環が追う。
「いいの?おにぎり屋さんも、えりりんのこと」
「いいんだ。なにせ俺は、空気が読める男だからな」
「ふーん。かっけえ」