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十六夜の月【アイナナ短編集】

第3章 三夜目.トライアングラー




彼女を真っ直ぐに見つめる瞳の中に宿った、滾る光。攫われるように取られた手を握る力は、意外にも強く。不意打ちのように、三月の唇は突然彼女の下の名を紡いだ。

エリの心臓を高鳴らせる理由は、多過ぎる。


「初めて逢ったその日から、ずっとずっと好きでした!オレと結婚を前提に付き合ってください」


シンプルで、男気溢れる告白であった。

エリは、三月に握られた手をゆっくりと引き抜く。そして、自らの口元を両手で覆った。こうでもしないと、今にもわっと叫び出してしまいそうだったから。


『はい…っ。私でよければ、お願いします』

「まぁ…そう、だよなあ。いや、分かってたことだ。だってあんたには、八乙女がいるわけだし…。
って、え??いま、何てった?」

『え??いま、何て言いました?なんでそこに楽が出てくるんですか?』


エリは首を傾げ、いま名前のあがった男の方を見る。すると彼は、顔を大きく背けて口をモニョモニョさせ、大量の汗をかいていた。
それを見て、楽と付き合いの長い彼女は全てを悟った。全員に聞こえる音量で溜息を吐いてから、声高々に公表する。


『彼がどんな内容の言葉を吐いたか知りませんが、私と楽は…従兄弟ですよ!』


環と三月が、店の外にまで聞こえる大声を上げたのは言うまでもない。

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