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十六夜の月【アイナナ短編集】

第3章 三夜目.トライアングラー




—8小節目—
トライアングラー


「頼むから、ここで待っててくれな。あと、出来れば店の中は覗かないであっち向いててもらっていい?」

「注文多過ぎ。いいけど」


文句を言いつつも、言われた通り店に背を向ける環。やはり彼は優しいと、改めて思った。
行ってくる!と告げると、頑張れよ!と答えてくれる環の背中がとても大きく見えた。

店内では、今日もエリが一人で番をしていた。三月を見つけるなり、彼女は目を輝かせる。


『和泉さん!』

「こんにちは」


三月がその笑顔に癒されたのは、ほんの束の間であった。彼の表情を曇らせたのは、厨房から出て来た割烹着に身を包んだ男の姿。


「よう、和泉兄。最近よく会うじゃねえか」

「店員面すんなら、いらっしゃいませくらい言って欲しいもんだな」


三月が嫌味の応酬に応えるとは思っていなかったのだろう。楽は、ほんの一瞬だけ呆気にとられた。しかし、すぐにいつもの余裕ある表情に戻る。だがその中にも、何故か嬉しそうな色が混じっていた。


『え…?なんか、二人の周りだけ空気重くない?』

「しょっちゅう店の握り飯買ってくれてんだって?エリからいつも話聞いてるよ」

「そうそう。今日も買い物したいんだけどさー。ちょっとそこにいられたら集中出来ないから、外に出ててもらえます?」

『明らかに空気重くない!?』


楽と三月は共に笑顔であったが、エリの言う通り纏う空気は重々しかった。

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