第3章 三夜目.トライアングラー
—7小節目—
勝ち負け
会話の一部始終を聞いてしまった大和は、重い足取りで三月の部屋に入った。
「えーと…。八乙女と、おにぎり娘さんが、つまりは…」
「恋人か、両思いかのどっちかなんだろ」
「そう、ですか」
大和は、頭の後ろに手をやって髪を掻いた。
「それはまぁ、なんというか。ライバルにとって不足はない!的な…」
「はは。ライバル…にすら、なれんのかな。オレ」
「……なぁミツ」
大和の表情が真剣みを帯びた時、部屋の外からもう一人メンバーがやってきた。
「あのさ、なんでみっきーは、もう負けたみたいな顔してんの?
がっくんが、えーと…えりりん?のこと好きだからって、みっきーの気持ちが消えるわけじゃないじゃん?」
「環…」
「好きなんだったら、好きって言えばいいだろ」
一部始終を聞いていたのは、大和だけではなかったのだ。
大和は、静かにその場を後にする。自分が言葉巧みに励ますよりも、環のような真っ直ぐな言葉の方が、今の三月には刺さると思ったから。
もう少しで、奪っちまえよ。とか言ってしまうところだった。大和は心の中で環に、後は任せたと呟きながら廊下を行く。
「無茶言うなって。相手は、あの八乙女だぞ」
「分かってんよ。てか、俺が知ってる八乙女は、がっくんしかいねーし」
「勝てるわけないだろ?」
「だから!なんでそうなんの?」
環は、全然分からない!と、両手で頭をわしゃわしゃした。