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十六夜の月【アイナナ短編集】

第3章 三夜目.トライアングラー




「お前、エリに惚れてるだろ」


自分の耳を疑った。同時に、心臓がびくんと大きく跳ねる。その後にやって来た感情は、何故か羞恥心であった。


「なんで、んなことがあんたに分かるんだよ」

「バレバレだったぜ。お前、楽屋に入って来た瞬間から俺達じゃなくずっとエリだけを見てた。その目が言ってんだよ。好きだってな」


自らの瞳を指差して、鋭い眼光で彼は言い放った。三月は、熱い顔を誤魔化すように声を張り上げる。


「だとしても、なんでこんな所で自分の気持ち曝け出さなきゃなんねえんだよ!オレにそんなこと訊いてくる、そっちこそどうなんだ?彼女のこと、どう…思ってんだ」

「決まってんだろ。愛してる」


訊かなければ良かったと、三月は即座に自分の言葉を悔いた。


「俺なら、どんな場所でだって誰にだって曝け出してやる。自分の気持ちだろ。何も難しいことじゃねえ」

「……そんな、お前だから…」

「あいつのことが好きなら、なんで今日あんな逃げるみたいに楽屋から去ってったんだ。エリの奴、あの後」

「そんな八乙女だから!敵わないって、思っちまうんだよ!!」

「和泉…」

「いいよな…。外見も中身も格好良くて、皆んなが羨むもん最初から全部持っててさ。それに比べて、オレは…
八乙女が相手じゃ、オレに勝ち目なんて…」


目を強く閉ざして、苦しげな声で話す三月。楽は、そんな彼を悲痛な面持ちで見つめていた。その震える肩に、ゆっくりと手を伸ばしてみる。しかし彼は、その手を途中で止めた。そして、あえて語気を強めて語る。


「和泉。今のお前に、エリは絶対に譲れない。相手だどうのこうのって理由で尻込みしちまうような男に、あいつは譲らねえから」


三月には、きっと死の宣告に聞こえたことだろう。死神は帰り際、ふっと目元を緩めた。


「…蕎麦、早く食えよ。腹が減ってちゃ、恋愛も仕事も上手くいきっこねえからな」

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