第3章 三夜目.トライアングラー
インターホンが鳴り、いつもの蕎麦屋の男がやって来る。
熱いよ。そう言いながら、彼はオカモチから次々に注文の品を取り出した。環やナギ達が、子供みたいにはしゃぎながらそれをリビングへと運ぶ。
玄関先で、大和が自分の財布から代金を取り出す。
「じゃあこれお釣りね。毎度どうも」
「はいはいどうも」
いつもなら、またよろしくお願いしますと言って去る蕎麦屋。しかし今日はなかなか立ち去らず、じっと大和の顔を見つめている。
「何だよ。そんなに熱い目で見つめないでくれる?減るから」
「和泉兄は、今ここにいるのか」
「ミツ?まぁ、居るっちゃ居るけど」
帰ってからずっと部屋で塞ぎ込んでいる。馬鹿正直にそう答えてしまったことを、大和はすぐに後悔することとなる。蕎麦屋が、その言葉を聞くなり寮の中へと上がり込んだからだ。
「は?ちょ、八乙…じゃなかった!蕎麦屋さーん!?不法侵入困るんですけど!」
大和の制止もなんのその。彼はただひたすらに、ある場所を目指し突き進んだ。ある場所とは、三月の部屋である。
ノックもなしに勢い良く扉を開ける。これには、部屋の住人もびっくりだ。
「えっ、は!?八乙っ、じゃなかった!蕎麦屋さんじゃん!何でこんなところに!」
テーブルの上には、さきほど配達したばかりの蕎麦が置かれていた。まだラップすら剥がされておらず、それをみた男は苛立った様子で三月に詰め寄る。
「早く食えよ。伸びるだろ」
「…ちょっと、食欲がなくてさ」
「早く食わないと伸びるだろ」
「お前マジで何しに来たんだよ!!」
まさか、こんなことを言う為に蕎麦屋はわざわざ自室に乗り込んだのだろうか。三月は半ばパニックに陥った。