第38章 利休の匣〜2026信長誕生祭〜
「戯言など……」
「……そう言えば、貴様からの祝いの品がまだだったな」
信長は指先で朱里の濡れた髪を一筋掬い取り、ちゅっ、と口付けを落とす。
「っ……お祝いは今朝一番にお渡ししましたよ」
「足りん。もっと寄越せ」
「もっと、って……」
祝いの品は今朝一番の祝いの言葉とともにお贈りしていた。今年は羽織を飾る羽織紐を手作りした。決して高価な物ではなく、手作りのささやかな物だったが、やはりそれでは不足だったのだろうか。朱里が困ったように目を瞬かせると、信長は喉の奥で低く笑った。
「祝いは何も品物だけとは限らん」
腰を抱き寄せられたまま、信長の指先が唇に触れ、催促するように撫でられる。
(品物だけじゃなくて、もっとお祝いを……?)
「っ…、お誕生日おめでとうございます、信長様」
「それはもう何度も聞いた」
改めて祝いの言葉を告げるも、信長の指先はなおも催促するように唇をゆっくりとなぞってくる。
「言葉だけでは足りん。もっと、だ」
(もっと、って……)
熱を帯びた深紅の瞳に吸い寄せられるように朱里は背を伸ばし、そっと信長の唇へ口付けた。
触れるだけの淡い口付け。
それだけのつもりだったのに、離れようとした瞬間、後頭を強く引き寄せられて深くまで貪られる。
「……っ、んっ…のぶ、ながさ…ま…」
「まだだ。もっと寄越せ」
熱を帯びた吐息とともに低く囁かれ、再び唇が深く重なる。
髪を撫でる指先は優しいのに、唇を甘く深く食む熱は容赦なくて、心の奥まで蕩けてしまいそうになる。
散々に貪られ、ようやく解放された頃には、息も乱れ、すっかり力が抜けてしまっていた。
「っ、はっ、はぁ…」
「この程度で根を上げるとは、まだまだだな」
濡れた唇を指先で拭いながら不敵に笑う信長を、朱里は恨めしげに見上げる。
「もぅ…意地悪です、信長様」
「今更だな」
くくっ、と楽しそうに笑われて、朱里は頬を膨らませてみせるが、そんな拗ねた仕草すらも信長にとっては愛らしいばかりだった。
「さて、返礼に俺からも褒美をやろう」
そう言うと、信長は朱里を腕に抱き、立ち上がる。迷いのない足取りで向かうのは、行燈の淡い灯りだけがともる寝所だった。