第10章 裁判と約束
そう言い残して杏寿郎は笑顔で更紗の元へ歩み寄り、禰豆子を物珍しそうに眺めている。
先程までは僅かに殺気すら滲ませていた杏寿郎のあまりの変わりように驚き、実弥は異論を唱えようとしたが別の声でそれは遮られた。
「どうしたのかな?」
お館様の声だ。
傍らに佇んでいる綺麗な幼子へ問いたようだ。
「鬼の女の子は泣きだしました」
「泣きだした?」
「はい。現在は月神様にしがみついて泣いています。しかし、不死川様に刺され、目の前に血塗れの腕を突き出されても我慢して、噛まなかったです」
お館様は驚いたように一瞬僅かに目を見開くが、すぐに優しい笑みを浮かべた。
「フフッ、更紗の事が気に入ったのかな?でもこれで、禰豆子が人を襲わないことの証明が出来たね」
光りを映していない瞳で柱の全員に視線を巡らせ、最後に炭治郎と小芭内でそれを止める。
「小芭内、炭治郎を離してあげてくれるかい?」
不服そうに眉をひそめた小芭内だったが、お館様に願われてはそれを叶えるしかないのだろう、炭治郎を押さえつけていた腕を離し解放した。
「ありがとう。そして炭治郎、それでもまだ禰豆子のことをよく思わないものもいる。今度は炭治郎が証明しなければいけない。炭治郎と禰豆子が鬼殺隊として闘い、役に立てることを」