第10章 裁判と約束
更紗は畳に血が落ちないよう反対の腕の隊服で受けながら、禰豆子の前へ血の流れる腕を差し出す。
「禰豆子さん、貴女自身で証明してください。人を襲ったことはない、これからも襲うことはないと」
言葉を理解はしているのか、禰豆子は更紗の顔を見つめ必死に耳を傾けているように見えた。
だが実弥に複数回刺され血を多く流した影響か、激しい飢餓状態に陥っており呼吸も荒く唾液も止まる様子はない。
そのままの状態で禰豆子は木箱から1歩足を踏み出し、食料を欲している幼子のように両手を更紗へと伸ばした。
鋭い爪で更紗の腕に少しでも傷を付けてしまっては、禰豆子の命も手紙に名を連ねた3人の命もなくなる。
それを理解しているが、ここで腕は引けない。
自ら証明させるために出たのだから、庇うような真似は許されない。
嫌な汗が背中を伝った時、庭の方から大きな声が届いた。
「禰豆子、頑張れ!更紗を傷つけちゃ駄目だ!頑張ってくれ!」
炭治郎の声だ。
禰豆子は即座に反応し瞳に兄の姿を映すと、伸ばしていた手の動きを止めた。
そうして何かを思い出したかのように目を見開き、下ろした手で羽織の裾をギュッと掴む。