第10章 裁判と約束
笑顔だが瞳には譲らないという意思が色濃く出ているので、杏寿郎は再びため息を零して手を下ろす。
「分かった。ならばそばで見守ることにする」
「はい、よろしくお願いします。炎柱様、風柱様」
そうして更紗は地面に押さえ付けられている炭治郎へ笑顔を向けた。
「きっと竈門さんの声や姿に禰豆子さんは反応を示します。信じてあげてくださいね」
「更紗……どうしてそこまで……」
その質問には答えず笑顔だけ残して、更紗は2人とともに部屋の中へ入り陽の光が当たらない奥で木箱をそっと置いた。
そして更紗が蓋に手をかけると同時に、杏寿郎も実弥も腰に差してある日輪刀の柄に手を当て警戒を強める。
それを視界の端に映しながら、蓋へ顔を近づけて小さく禰豆子へ話しかける。
「頑張ってください、お兄さんも私も信じています」
何も反応がないので聞こえたのかすら分からなかったが、いつまでもこの場にいる者達を待たせるわけにはいかないのでゆっくりと蓋を開く。
すると中からは可愛らしい幼子が姿を現した……かと思えばどんどんその身長が伸びていき、立ち上がっている更紗と同じくらいまで成長した。
一見普通の女子だが瞳孔は猫のように縦長で、人を噛まないようにとくわえさせられている竹筒の隙間からは、更紗の血の匂いに反応して唾液が流れ出ている。