第10章 裁判と約束
そんな心の中の焦りを悟られないよう取り繕いながら、杏寿郎と実弥……そしてお館様をそれぞれ見つめ頭を下げる。
「お館様、炎柱様、風柱様。どうか私の血をお使いください。風柱様ほど強力ではございませんが、私も稀血です。禰豆子さんが人を襲うか襲わないかの判断を下す分に、不足はないかと思います」
至って冷静だと装いながらも、更紗の心中は穏やかではない。
今は太陽が出ているとはいえ、禰豆子は2年以上も血を摂取せず自我を保ち続けている特殊な鬼だ。
何かの拍子に太陽を克服して木の箱から飛び出してくるかもしれない。
特に今は実弥に日輪刀で何度も体を貫かれた上に、更紗の血の匂いを至近距離で嗅ぎ続け飢餓状態に陥っている。
そんな状態の禰豆子を落ち着かせることが出来るのは、恐らくたった1人……小芭内に強く押さえつけられている兄である炭治郎しかいない。
兄の存在をそばで感じ、その声を聞けば最悪の結末を回避出来るはずだと更紗は考えているのだ。
「出過ぎた真似とは承知しておりますが、どうか願いを聞き届けていただけませんでしょうか?」
すぐ目の前の杏寿郎からは諦めたようなため息が漏れ、実弥とお館様はただ静かに更紗を見つめていたが、お館様が先に反応を示しニコリと微笑んだ。