第23章 上弦と力
そして再び技がぶつかる音が響き、義勇と炭治郎に治癒を施しながら杏寿郎と猗窩座へ視線を戻すと、そこには今まで何度か目にした猗窩座の悲しげに揺れる瞳があった。
鍔迫り合いをしている杏寿郎もそれに動揺しているのか、日輪刀を振り切れずにいるようだ。
それは義勇や炭治郎も同様で、攻撃を仕掛けあぐねている。
「どうして……そんなに悲しそうな顔をするのですか?私、貴方とどこかで会っていましたか?」
そんなことは有り得るはずがない。
杏寿郎に教えてもらった情報によると、上弦の鬼は100年以上顔ぶれが変わっていなかったはずだ。
鬼でない更紗はそんな前から生きておらず、鬼になる以前の猗窩座と面識など持ちようがない。
それでも、そうではないのか……と疑問が浮かぶほどに更紗を見つめる瞳は悲しみに溢れている。
「恋……雪さ……」
「こゆき……さん。その方が貴方にとって大切で、失いたくなかった方ですか?」
更紗の言葉に反応するように猗窩座は不快そうに眉をひそめ、拳に当たっていた杏寿郎の日輪刀を薙ぎ払った。
その勢いで更紗へと杏寿郎が吹き飛んできたが、持ち前の力で足を踏ん張り抱きとめて、僅かに後退するだけにとどめる。