第23章 上弦と力
墓穴を掘った。
せっかくしのぶが黙っていてくれたのに、これでは全く目も当てられない。
当の本人は冷や汗を流しているし、杏寿郎は歩く速度を緩めず真っ直ぐ前を見据えたまま緊張を途切れさせていない。
しかし……ほんの少し更紗を咎める空気を纏っているのは気の所為ではないはずだ。
「う……は、はい。あ、あの角を曲がった先ですね。戦闘音がここまで……私が先に様子を伺いましょうか?」
一歩、また一歩と足を進めるごとに激しい戦闘音が2人の鼓膜を刺激し、嫌でも緊張が高まり汗が吹き出してくる。
そして忘れもしない……列車の事件の際に突如として現れた、圧倒的で肌を無数の針で刺すようなおぞましい鬼気。
それがあの時よりも遥かに強く放たれており、2人の全身が泡立った。
「何が起こるか分からない以上、君を先には行かせられない。俺が先に出る、更紗は俺が戦闘開始後隙を見て2人に治癒を施してくれ」
更紗が頷き返すのを視界の端で確認した杏寿郎は日輪刀を赫刀に変え、集中力を研ぎ澄ませて技を放ちながら瞬く間に姿を消していった。
(私はまず治癒に専念……杏寿郎君が戦闘に加わっても決着がついてない。まず間違いなく酷い怪我を負っているはずです。するべきことを見誤ってはいけません)