第23章 上弦と力
(…… 更紗なりの気遣いか。あまり緊張し過ぎても良くないからな。それにしても……2人とも気持ちの切り替え早いな。もう緊張感を取り戻している)
それもそのはず、あと少しで猗窩座がいる現場に到着するからだ。
誰も油断をしていなかったし、辺りの警戒を怠ってはいなかった。
障子や飛び出してくる壁はもちろん、部屋から鬼が飛び出してこないかなど気配を探っていた。
それでも防ぎきれず、更紗を捕らえようとしていた障子が僅かに後ろを走っていた伊之助を捕らえてしまう。
「嘴平少年!掴まれ!」
杏寿郎と更紗が急停止して伊之助へと手を伸ばしたが、落下する速度には間に合わなかった。
「俺は大丈夫っつってんだろ!傷だらけの柱言ってたこと守れ!そいつ1人に」
無情にも杏寿郎と更紗が伊之助の手を取る前に障子がその口を閉じてしまい、それと同時に更紗や杏寿郎の纏う雰囲気が一気に怒りに塗りつぶされていく。
「どうして……私が近くにいると必ずどなたかが犠牲になってしまう。守りたいのに!」
「……行くぞ。胡蝶も栗花落少女も嘴平少年も無事だ。それぞれ成すべきことをその場で成している。俺たちも全うするぞ」
守りたくても連れていかれてしまった今はどうしようもない。
それを更紗も杏寿郎も分かっているので、足を止めることなく先へ先へと進んでいく。
「お願い……誰も死なないで」
小さくも悲痛な願いは隣りを走る杏寿郎の胸を締め付けた。