第23章 上弦と力
更紗の笑顔には理由があった。
伊之助が鬼の急所に刃を突き立てたことにより、杏寿郎の前に立ちはだかっていた氷の仏像が崩れ落ち、その影から太陽と見紛ごうほどの圧倒的な存在が飛び出してきたからだ。
「諦めるな!そのまま力を緩めず振るい続けろ!」
「あ"ぁ"?!んなこと言われなくても分かってんだよ!だけど」
1人で斬れないならば2人、それでも斬れなければ3人で……
杏寿郎は右手に握り締めていた日輪刀を伊之助の日輪刀に向かって投げ付け、更紗は大仏が消えたことにより氷の溶けた右手を伊之助の日輪刀の峰へと強く押し当てた。
「さようなら。今までの鬼の中で貴方が1番嫌いです」
耳元で囁かれた声を最後に鬼の頭は宙を舞って音は完全に遮断され、再生しようにも体はバラバラと塵へと化していく。
「酷い……言葉だね。もっと……」
何を言いたかったのかは分からない。
人の気持ちを理解出来ない鬼の言葉など誰にも分からない。
また醜い言葉を続けたのかもしれないし……人らしい感情を手に入れたかったという願望を伝えたかったのかもしれない。
真実はこの先知ることはなくなってしまったが、目の前にいた強大な鬼を倒せたことは紛れもない真実である。
極度の疲労、極度の緊張から解き放たれた更紗は床に倒れ込んだ。