第23章 上弦と力
「気色悪ぃ面晒してんなぁ!さっさと死んで地獄へ落ち腐れぇ!」
「地獄なんて……あれ?」
ぐしゃり
と耳を覆いたくなるような音が2人と鬼の耳に響いた。
一瞬……自分の腕が腐り落ちた音かと思い身を震わせたが、更紗の体も伊之助の体も異常はない。
そうなると残る対象はひとつだけ。
迫り来る伊之助に新たな攻撃を繰り出そうと振り上げていた鬼の右腕が、扇を握ったままの形で床へと腐り落ちていたのだ。
それならば左腕をと振り上げようとしたが、それは腐り落ちることなく……温かくも強い力で締め上げられ叶わなかった。
「言いましたよね。貴方はここで消えるんです。貴方が嘲笑い馬鹿にしてきた人間の手によって」
凛とした声が鬼の鼓膜を震わせたかと思ったら、頸に鋭いような鈍いような痛みが襲かかってきた。
しかしそれはそれ以上進まず、頸の硬さに苦戦しているように見える。
「クソ硬ぇええ!これ以上進まねぇぞぉお!」
「アハハッ!それは残念だね!どうするの?このままだと俺は毒を分解しちゃうかもよ?」
更紗からは見えないが、挑発的な笑顔を浮かべているのだろうと声音から容易に判断出来た。
それでも更紗は不快に顔を歪ませることなく、僅かに笑みさえ浮かべている。