第23章 上弦と力
鬼の元へと到着する直前、更紗は杏寿郎と伊之助の怪我を治すため、造血薬入り注射器を2本同時に首へと突き刺し、その針で自分の大腿部を引っ掻いた。
流れる血は治癒の力と混ざり合い、1人で仏像の相手をする杏寿郎や、仏像、鬼からの攻撃で生傷を増やしながら突っ込んでくる伊之助を包み込んでいく。
「やっと俺の近くに来てくれたね!何をするつもりなのかな?胸に飛び込んでくれてもいいよ!」
あと少しで足が完治しそうな鬼は立ち上がって更紗を抱き止めようと両腕を開けているが、そこに飛び込んでいくなど万が一にでもありえない。
しのぶの姉や伊之助の母親を殺した鬼の軽口に顔を歪ませた更紗は、胸へ飛び込む代わりに背後へ回り込んだ。
「私から貴方への最大の贈り物、お受け取りください」
鬼がこちらへ体を向ける前に自らの凍った日輪刀をその背へ突き立て、体の重みを使いそれを一気に押し込んでいく。
「うわぁ……嫌な贈り物だ。まぁいいや!そのまま取り込んであげる!」
「その前に貴方は消えますから……伊之助さん!今です、頸を斬って下さい!長くは持ちません!」
更紗の力も強いが、鬼の力からすれば幼子が縋り付いてきている程度の強さだ。
だがそれでも一瞬隙を作るには十分な力である。