第23章 上弦と力
この母ありてあの娘あり。
5年ほどしか共に生活していないはずだが、紗那の血が濃いのか何なのか……脈々とその性格を更紗が受け継いでいる。
「紗那……突っ込んでいって更紗が怪我をしたらどうするんだい?!杏寿郎君や嘴平君が気に病むだろう?!」
涼平や千寿郎の慌てふためく様子などどこ吹く風か……紗那は2人から目をフイと逸らし、その視線を鎹鴉に縫い止めて体を両手でしっかり掴んだ。
「鴉さん!うちの子に伝えて下さいな!どんな事をしてでも2人を守り助けなさい、そして自分の身も蔑ろにはしないようにって!ここまで情報を届けられるのだから出来るのでしょう?!早く!」
可哀想な鎹鴉……体をガクガク揺らされ、額の紙もヒラヒラと揺れている。
「カァ……ヤッテミマスガ、伝エラレルカハ現地ノ鎹鴉ニ委ネラレマスヨ」
「それでもいいわ!鬼が弱ってる今が絶好の機会なんだもの!ここで倒さなきゃそれこそ危ないから……お願い、私の声を届けて」
ただ勢いだけで言っているわけではないらしい。
それなりの考えがあるようだが、確認の意を込めて鎹鴉は千寿郎を見つめた。
代々鬼殺隊の炎柱を担ってきた家系の息子である千寿郎は、その縋るような視線に頷き返す。
「お伝え下さい。兄上がいればどうにか更紗さんを上手く導いてくれるはずですから」
こうして紗那の言葉は全鎹鴉に共有され、それぞれの判断によって更紗だけでなく剣士たちにも伝えられることとなる。