第23章 上弦と力
その声に弾かれたかのように伊之助は動き出し、それに伴って更紗と杏寿郎も日輪刀を構え、放ってくるであろう血鬼術に構えるが、追い詰められ鬼が出してきたのは予想を遥かに超えたモノだった。
「血鬼術 霧氷 睡蓮菩薩」
目にした場所が鬼の本拠地でなければ……これを作り出したのが鬼でなかったならば、目の前に現れた巨大な氷の菩薩像に感嘆の声を上げていたかもしれない。
それほどに見事なモノだが、それから溢れ出ているのはとてつもなく禍々しい冷気だけである。
「んだよ?!こんなの相手にどうしろって……」
「先ほどと同じです!伊之助さんは何が出て来てもっ!痛っ……鬼の頸を斬ることだけを考えて!」
菩薩から吐き出された息から伊之助を庇った更紗を冷気が襲い、日輪刀ごと右半身を凍らせる。
「お前!そんな」
「構うな!胡蝶や更紗の働きを無駄にするな!逃げられるぞ!」
そう言う杏寿郎の半身も凍り付き、辛うじて更紗の治癒で動けているに過ぎない状況だ。
「くそっ!すぐ斬ってやるから待ってろぉ!」
自分を守るために治癒でさえも対応しきれない攻撃を受ける2人に歯噛みしながら、伊之助は再び鬼の元へと飛び出して行った。