第23章 上弦と力
だがそれを受けるほど上弦の鬼は甘くない。
空気を切るように振られた扇からは蓮の花を模した氷が出現し、間髪入れずにその花から蔓が伊之助へ向かって伸ばされ、体を拘束しようと蠢いている。
それを体の柔らかさを生かして避け、尚も鬼の頸を斬らんと勢いを衰えさせずに突っ込んでいくが、鬼の口から紡ぎ出された言葉によって遮られた。
「結晶ノ御子」
鬼を今し方まで見据えていたはずの伊之助の視界に映ったのは、自分の跳躍だけでは到底届かないはずの天井。
何が起こったのか、何をされたのか分からない伊之助の前に氷の小さな人形が現れ、事もあろうか上弦の鬼と同じ血鬼術を放ってきた。
「伊之助さん!受け身を取って!傷は治しますので、すぐに動ける体勢を整えて下さい!」
返事を返す余裕は今の伊之助にはないが、更紗の言う通りに体を空中で捻って体勢を整えていると、今までより強く治癒がかけられ、血鬼術によって凍り付きそうだった体に体温が戻る。
「えーー、これも治しちゃうの?ちょっとさ、俺はこの子と話しがあるから君たちは大人しくその子と闘っててくれる?」
「なんだこいつは?!更紗、気を付けろ!この人形、あの鬼と同じ技を同威力で出してくるぞ!」