第23章 上弦と力
全てにおいて時を見計らったかのようだった。
杏寿郎が更紗から遠く離れ、伊之助やカナヲは更紗より前で攻撃を躱し、唯一しのぶだけが更紗のすぐ側にいた。
本当に……目と鼻の先にいたのだ。
「更紗ちゃん!」
気が付いた時には背中に強い衝撃があり、気が付けばいつの間にか近くまで来ていた杏寿郎に強く手を引かれていた。
そして元の速さに戻った世界で最初に見た光景は、しのぶが微笑みながら障子の中へ消え行く姿、そしてその次に見たのはその後を追うようにカナヲが障子の中へ飛び込んでいく姿。
「う……そ。しのぶさん!カナヲさん!」
手を伸ばすが無情にも障子は閉まりつつあり、更紗だけでなく伊之助が手を伸ばしても2人に届くことはなかった。
そして激しい音を立てて勢いよく閉まった障子から発せられた風は、伊之助の猪頭をふわりと宙へと舞い上がらせた。
「更紗、今は目の前の鬼に集中しろ!胡蝶には栗花落少女がついているので大丈夫だ!後で必ず会える」
「かしこまり……ました。この鬼をすぐに倒してしのぶさんとカナヲさんに合流します」
自分や鬼に対する怒りから体が震え、自然と日輪刀を握る力が格段に上昇する。
その様子はいつもの更紗と全く違うものだが、成し遂げなければならない事を見失ってはいないので、杏寿郎は手首を掴んでいた手の力を緩めた。