第21章 秘密と葛藤
街の隅っこで蹲り、雨にいくら打たれようと全く更紗の心は晴れないままだった。
本格的に夜が近付いてきており、辺りは先ほどよりも薄暗くなって人通りも皆無である。
「どうしよう……帰らないと杏寿郎君が心配しちゃう。でも頼みの綱のお化粧も流れちゃったし、杏寿郎君のお顔を見たら泣く自信しかない。でも……会いたいなぁ」
気疲れからか、雨に打たれ全身濡れ鼠なのにも関わらず、更紗を急激な眠気が襲ってきた。
ウトウトと意識を手放しそうになった時、近くで艶やかな黒い羽を羽ばたかせた何かが肩に降りてきたような気がしたが、それが何なのかを確認する前に、更紗は夢の世界へと旅立ってしまった。
随分眠ったのか数秒眠っただけなのか……突如として雨が体にかからなくなり、そこで不思議と目が覚める。
未だにぼんやりと滲む視界には見覚えのある着物と、太陽を彷彿させる暖かな色をたたえた瞳が映った。
(あぁ……杏寿郎君だ。じゃあさっきのは神久夜さんだったのね。私のいる場所を杏寿郎君に知らせに行ってくれたのかな?)
何か自分に声を掛けてくれているが、夢現だからか上手く声が聞き取れず、杏寿郎の顔を呆然とただ見つめる。