第21章 秘密と葛藤
結局返す言葉が何も思い浮かばず、別室で待機した後に行冥に玄関まで送ってもらった。
『鬼舞辻は5日後……との事だ。判断は月神に任せる』
あまりの消沈具合を見兼ねてか、行冥は別れ際に静かに教えてくれた。
だが教えてもらったとしても、お館様の願いを聞き入れるには向かわない選択が正しい。
重い心に比例して体も重くなり、もはや走る元気すらない。
それに追い打ちをかけるように雲行きが怪しくなり始め、数分歩いた頃には前も見えないほどの大雨が降り出した。
「せっかくお化粧したのに……これでは崩れるも何も全て流れて何も残りませんね。今日は駄目な日です」
あと少し歩けば屋敷へと辿り着けるが、今の更紗にはどんな顔をして杏寿郎に会えばいいのか全く分からない。
ずぶ濡れで情けない表情の自分を杏寿郎が目にすれば、何かあったのだと勘づいてしまうからだ。
「まだ日没まで時間ある……よね?この暗さじゃ鬼が出るかもしれないけど……5日後にお館様のところに来るなら……わざわざ現れないかな。日が暮れるまで雨で頭を冷やそう」
日が暮れるまで……と言っても、空は厚い雲で覆われているので正確な日没などわかる状況ではない。
それでも、今はまだ屋敷に帰りたくなかった。