第21章 秘密と葛藤
「更紗はやはり優しいね。でも、その優しさは私に向けるのではなく、鬼に苦しめられている……これから苦しめられるかもしれない人々に向けてほしい。私はね、体がこんなだから刀を振りたくても振れなかった。君たちと肩を並べて闘いたかったのだけど、それは叶わなかったんだ」
未だに入口で佇む更紗を呼ぶように、お館様はゆっくりと腕を上げ手招きをした。
少し迷う素振りを見せたが、更紗はぎこちなく動く関節を懸命に動かして、素直にお館様の前へと歩み寄りその場に腰を下ろした。
それを待っていたのか、お館様は1度切っていた言葉を続け出す。
「鬼舞辻が私の前に姿を現すことは、またとない機会なんだ。その機会を私が必ず好機に変えてみせる。だからどうか、私にも君たちと一緒に闘わせてほしいんだ」
「そ……んな……そんな風に言われてしまうと……私、どうすればいいか」
お館様を助けたい。
でもそれをしてしまうとお館様の願いを無碍にしてしまう。
誰にも涙を流して欲しくない。
様々な感情が更紗の胸の中を渦巻き掻き乱し、張り裂けんばかりの鋭い痛みに襲われて否が応でも涙が滲んでくる。
「更紗に対して約束を取り付けてしまうと……君を苦しめることになってしまいそうだから、敢えてそれはしないでおくよ。ごめんね、更紗。私の我儘を許しておくれ」