第21章 秘密と葛藤
「入っておいで。大丈夫、私も行冥も怒ってなどいないから」
声を出すのも辛いはずのお館様の声は、更紗が先程出した声よりもはっきりとしており、優しいながらも拒むことが憚られる声音だ。
「失礼……致します」
やはり喉から絞り出す声は情けなく、お館様に対して向ける声音としては甚だ相応しくないが、今はこれが更紗の精一杯で…部屋の中へ足を動かすことすらままならない状態である。
「いらっしゃい。更紗がここに来る確率は限りなく0に等しかったのだけど……私の予知も鈍ってしまったかな?」
包帯で覆われた顔から覗く目は相変わらず優しく細められ、余計に更紗の胸を締め付けた。
「そんな……私がそそっかしくて抜けているので……お館様を振り回してしまっているに過ぎません」
笑顔を向けようと更紗は口角を上に上にと意識するが、体と同様、顔の筋肉まで言うことを聞いてはくれず、代わりに望んでもいないのに眉が下がり目の奥がツンと痛み出す。
「抜けてなんかいないよ。更紗はそのまま、優しく穏やかでいてくれることを私も柱の皆も望んでいる。さて、さっきの行冥との話しは聞かれてしまったようだね」