第21章 秘密と葛藤
「すみません……あまりにも緊張感が欠けていますよね。あの、大丈夫です!適当にしていれば覚えると思いますし、今日はこの辺で失礼致します!そうだ、これ!皆さんと飲もうと思ってお茶を持ってきたんです!杏寿郎君がお小遣いを下さいまして!ではまた明日です!」
長い沈黙に耐え切れず、更紗は荷物の中から本部へ来る前に買ったお茶を取り出して机の上に置くと、顔を真っ赤にしたまま部屋を飛び出そうとしたのだが、扉に手をかけたところで手首を握られた。
「待って下さい!違います、呆れたのでも怒ったのでもなくて、驚くほど可愛らしいお願いに呆気に取られたんです。更紗ちゃん、お化粧しましょうか。可愛くして差し上げます」
恐る恐る更紗が振り返ると、その言葉の通り誰も呆れたり怒ったりしておらず……いや、愈史郎は呆れているが刺々しさは少し和らいでいるように見える。
「ほ、本当ですか?!ありがとうございます!」
「可愛らしい願いと言うより間の抜けた」
「愈史郎!」
「冗談です!珠世様」
醜女醜女とここに来て何度も言われたが、何だかんだで愈史郎も更紗の化粧が終わるまで文句を言いながらも付き合ってくれたので、やはり悪い人ではないようである。