第21章 秘密と葛藤
「お疲れ様でした。もう夕刻も近いので今日はこの辺で終わりましょうか。更紗ちゃん、1人で帰れますか?」
洗い終わった器具を並べ終え、更紗は閉められているカーテンを少しだけ開いて外の様子を確認すると、しのぶへ向き直って首を縦に振った。
「はい!まだまだ日暮れには時間がありますので。その……しのぶさんに折り入ってお願いがあるのですが……よろしいでしょうか?」
頬を少し赤らめ恥ずかしそうにモジモジする更紗の様子がいつもと違うことから、研究や治癒に関しての願いではないと判断したしのぶは顔を綻ばせて頷く。
「もちろんですよ。お願いはなんですか?」
「その……お疲れのところ個人的なお願いで申し訳ないのですが、お化粧を教えていただけませんか?いつもしのぶさんは綺麗にしていらっしゃるので……持参したのは紅と頬紅だけなのですが……」
思ってもみなかった小さな願いに、しのぶはもちろん珠世や愈史郎までもがキョトンと目を丸くして動きを止めてしまった。
それが何を意味するのかいまいち理解出来ない更紗は顔を真っ赤にして隊服のスカートをぎゅっと握り締め俯き、居心地悪そうに身を縮こませている。