第20章 柱稽古とお館様
そう言って立ち上がった更紗の手首を引っ張り動きを止めたのは千寿郎だった。
どうしたのかと首を傾げると、千寿郎は更紗をその場に座らせ直し自分が代わりに立ち上がった。
「更紗さんは休んでいてください!今日は僕と父上で皆さんの朝餉を準備すると話してここに来たんです。僕たちも鬼殺隊に携わる者ですので、お手伝いさせて下さい。兄上もここでお待ちください」
まるで反論を聞くつもりはないと言うように、千寿郎は2人の返事を聞く前に笑顔を厳しい顔の裏に隠した槇寿郎と共に、居間を後にして台所へと向かった。
「よ、よろしいのでしょうか?やはり私もお手伝いした方が……」
ソワソワと座ったまま体を動かす更紗の手を握り、動かなくていいと杏寿郎は首を左右に振る。
「お言葉に甘えよう!父上のあの顔は君の助けが出来ることを喜んでいるお顔だ!更紗や俺が手伝ってしまえば、途端に落ち込むのが目に見えている」
そこまで言われてしまえば手伝いたくても手伝えない。
更紗は少し眉を下げながらニコリと微笑み、握られた杏寿郎の手をキュッと握り返した。
「分かりました。朝餉はお義父さまと千寿郎君にお任せすることに致します。では、お待ちしている間、杏寿郎君と別れた後の柱稽古のお話を聞いてください!色々あったのですよ!」
「あぁ、聞かせてくれ!どんなことをして、どう思ったのかを」
千寿郎と槇寿郎の計らいで設けられた2人の時間。
師弟関係最後の朝の時間は穏やかに過ぎていった。