第20章 柱稽古とお館様
寝ている剣士たちを起こさないように廊下を静かに歩き、辿り着いた玄関の戸を静かに開くと、項垂れながら門を出ようとしている槇寿郎とそれを宥める千寿郎の後ろ姿が瞳に映った。
杏寿郎は笑みを浮かべながら2人へ歩み寄り、トントンとそれぞれの肩を叩いて引き止めた。
「父上、千寿郎。取り敢えず中へ。もう更紗は準備を始めているのですぐに来ます」
「杏寿郎!そうか、あの子はやはり帰ってきていたのだな!」
「父上、剣士の方々が起きてしまいます。声を抑えてください」
千寿郎に窘められた父親は柄にもなく背中を縮こませ、気まずそうに杏寿郎の様子を伺っている。
そんな2人の様子から屋敷での普段の生活が垣間見え、杏寿郎は更に笑みを深めた。
「ありがとう、千寿郎。父上も遥々赴いてくださってありがとうございます。さ、ここでは何ですので、早く中へ。更紗も2人の来訪を喜んでいますよ」
そう言って2人の背に手を当てて家の中へと促していく。
この時、杏寿郎はこっそり槇寿郎の顔を覗き見たのだが……厳しい顔を装ってはいるものの、やはり装っているだけで口の端が上下にウニウニと動いていた。
(うむ!父上も元の姿に戻りつつあるな!喜ばしい限りだ!)
槇寿郎見守り隊の1人である杏寿郎は、心の中で父親の日々の変化を盛大に喜んだ。