第20章 柱稽古とお館様
「……千寿郎か?」
「そのように思いますが……まだ僅かに日が昇った頃ですし」
2人は顔を見合せて首を傾げ、布団の中で耳をそばだてて外の様子を伺っていると、聞きなれた声がもう1つ聞こえてきた。
『柱稽古をしていると聞いたので、もう起きてると思ったのだ。仕方ない、千寿郎……出直すぞ』
やはり外にいるのは千寿郎で間違いなく、その話し相手は紛うことなく槇寿郎だろう。
どうやら2人がこの屋敷にいると聞き付け、いてもたっても居られなくなり……引き止める千寿郎を引っ張り出し朝も暗いうちから、遥々ここまでやってきたらしい。
「杏寿郎君、お2人が帰ってしまいます!お出迎えしなければ!か、髪は乱れていませんか?」
「落ち着け、更紗。髪は乱れていないが、まだ鬼が出てもおかしくない時間だ。君はゆっくり身なりを整えてから居間においで。出迎えは俺がする」
慌てて起き上がった更紗の頭を撫で、杏寿郎は苦笑を漏らしながら少し乱れていた襟元を整えて部屋を出ていった。
「えっとえっと……まずは着替えなくては!今日は稽古もお休みなので……着物でいいですよね?」
肌襦袢を着用し、素早く羽織と同じ柄の着物に袖を通して準備を着々と進めるその表情は、嬉しそうな笑みで満たされている。