第20章 柱稽古とお館様
「杏寿郎君!」
本当に突然。
杏寿郎が言葉を終える瞬間を見計らったかのように、更紗はビクリと体を震わせて飛び起きた。
もちろん杏寿郎もびっくりである。
「どうした?!どんな夢を見ていたんだ?!」
目は見開かれているが、まだ更紗は夢と現実の境を彷徨っているのか焦点が合っていない。
「夢……あれ?私、どんな夢を見てたのかな?杏寿郎君知ってる?」
真剣な表情を杏寿郎へ向けて問うが、本人以外知る由もない。
いくら柱であっても人の夢の中にまで邪魔をする力は持ち合わせていないのだから……
「夢現だな!悲しい夢だったのなら覚えていなくて構わない。おいで、もう少し微睡んでいよう」
見開かれていた目も今は半分ほど瞼に覆われておりまだ眠いのだと物語っていたが、意識は徐々に覚醒してきたらしく、杏寿郎が広げてくれている腕の中に素早く体を滑り込ませた。
「悲しい気持ちでしたが、一気に幸せになりました。杏寿郎君、大好きです」
「相変わらず更紗は愛らしいな!このまま襲ってしまいたく……」
「だから言ったではないですか!まだ兄上も更紗さんも起きていませんよと」
杏寿郎の言葉を遮り、聞きなれた声が障子の向こう側……庭から聞こえてきた。