第20章 柱稽古とお館様
翌朝……と言えど、杏寿郎はまだ日が昇り始める前に目を覚ました。
薄暗く静かな部屋の中、心地よい温かさに包まれた自身の腕を掛け布団をこっそり上げて覗き見ると、更紗が抱き枕よろしく両腕を巻き付けて眠っている。
「フフッ、愛らしいな。鬼のいない世界で、このように穏やかな瞬間を日々君と過ごせたらどんなに幸せだろうか」
杏寿郎は抱き寄せたい気持ちを抑え、代わりに綺麗な髪の流れに沿って頭を撫でると、更紗は目を瞑ったまま僅かに身動ぎをした。
「置いて……いかないで」
「?起こしてしまったか?」
返事は返ってこながったが小さな寝息が返ってきた。
(寝言か?……夢くらい幸せなものを見て欲しいものだ)
寝息を立てている更紗の眉間には伸ばしてやりたいと思うほどに皺が寄っており、額には汗が滲み瞳には薄らと涙が浮かんでしまっている。
寝言の内容からして、杏寿郎が瀕死の重傷を負ったか或いは……と予想されたので、強ばった体を解してやるようにゆっくりと背中を撫でた。
「置いていかない、俺は更紗のそばにいるので心配するな。君に泣かれてしまうと、酷く心が波立ってしまう」